不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

32.本気って……すごいですね

 何かにからみつかれて身動きが取れなくなりながら、必死に叫ぶ。

「ヴィンセント様!」

「エリカ、大丈夫だ、すぐに助けにいく!」

 しかしそう言っているヴィンセント様も、何かにぐるぐる巻きにされている。その何かは、トレが敵兵を閉じ込めた時のつる草によく似ていた。

 つる草が邪魔をして、腰の剣が抜けないらしい。ヴィンセント様が懐からナイフを取り出して、つる草に切りつけようとする。しかしその時、どこからかトレの声が聞こえた。

『こっち来て。それ、危なくない』

 その言葉と同時に、わたしたちの体は勢いよく引っ張られていった。足が地面についていなかったから、もう飛んでいるのと同じだった。

 大きな樹がぐんぐん迫ってくる。そしてわたしたちは、細かい葉がたっぷりと茂った枝の上に放り出された。つる草はすぐにほどけて、離れていく。

『エリカ、ヴィンセント、二人はここで見ていて。ここが一番安全』

 隣の枝に、トレが立っていた。その黄緑色の毛皮は、見たこともないくらい逆立ってしまっている。

「何をするつもりだ、トレ。こんなに大きな樹を生やして」

『トレーフルは怒った。この戦い、終わらせる』

 トレはそう言って、小さな手で枝を叩く。と、樹の枝がしなって地面を叩いた。

 枝が触れた地面に、太くて頑丈な木がにょきにょきと生えてきた。……木が増えてる。

『南から来た敵のヒトが、こっちに入れないようにする。トレーフルはそう決めた』

 そう言っている間も、トレは両手で枝をばんばんと叩き続ける。それに合わせて枝が動き、森がどんどん広がっていく。そしてどこからか生えてきた太いつる草が、その木々の間を埋めていく。まるで、壁を作っているかのように。

 敵も味方も、そのさまに恐れをなして後退している。それをいいことに、木とつる草の壁はどんどん長くなっていた。

「トレ……こんなことして、大丈夫なの?」

 彼は幻獣で、人とは違う力を使うことができる。けれど今彼が見せている力は、普段のものともかけ離れた、とんでもない力のように思えた。

『大丈夫ではないな』

 そんな声と共に、ネージュさんが近くの枝に飛び乗ってきた。わたしたちの後を追いかけてきたらしい。

『これ、トレ。無茶をするでない。命が縮むぞ』

 スリジエさんが飛んできて、そう言った。命が縮むって、そんな。

『トレーフルは決めた。南のヒト、許せない。追い出す。トレーフルにはできる』

 トレは一歩も譲るつもりがないらしい。そうしている間も、壁は伸び続けている。
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