御曹司様の一目惚れ人生ゲーム〜私はただ愛されたかっただけ〜花村三姉妹 葉子と仁の物語

彼女

クリスマスツリーが広いロビーの中央に置かれていた。日曜日だからか、親子連れとカップルが多く、華やかで大きなツリーの前で写真撮影している。妹の美愛とクリスマスの楽しい思い出に花を咲かせていると、どこからか猛禽類(もうきんるい)の熱い視線を感じ、そちらに目を向けた。


えっ、だ、誰？
もしかして、私のことを見てるの？


父さまと同じくらいの高身長で品があり、整った顔立ちをしている男性。ただそこに立っているだけでオーラを感じる。思わず立ち止まって彼の美しい佇(たたず)まいを見つめる周りの女性たち。


素敵な人だけど、彼の視線に息苦しさを感じる。なぜだろう？


その時、彼の瞳の奥に潜む野性的な光が見えた気がした。


私の中で警笛が鳴り響く。
『この人はキケン、また傷つく』と。


慌てて目を逸らし、周囲を見てハッとする。


ここは女性に大人気で、予約の取りづらいシックなラグジュアリーホテル、ホテル9(クー)。


もしかして、服装がカジュアルすぎたかな？
きっと場違いなんだ、デニムで来ちゃったから……。


頭の中で自問自答している私をよそに、美愛が彼に挨拶をしに行った。彼女に優しい笑顔を向けて会話をしている彼の姿に、当惑した。先ほど私に向けられていた視線とは全く違っていたから。


再び警笛音と口の中に嫌な苦味が広がっていく。


あぁ、あの時のようだ……。
忘れたいあの日が蘇る。


美愛に手を引かれ、現実に戻された。


そうだ、今は妹の問題解決が先だ。彼女の婚約破棄になりかねないこの状況を片付けないと……。


もうみんな集まっているらしく、私と彼は目で軽く挨拶をし、会議室へ急いぐ。


そう、これが九条仁との出会いだった。