わたしのはいしゃさん日記

歯磨き実習

高校は、介護の専門学科でした。介護というのは奥が深く、色々な知識や技術が必要なお仕事です。その中の一つ、口腔ケア(歯磨き)を勉強した時のお話です。

歯の磨き方には、歯に対してまっすぐ垂直に歯ブラシを当てるスクラビング法、歯と歯茎の間をよく磨くために歯ブラシを斜め45℃で当てるバス法の2種類があるそうです。講義で知識を得たあとに、実際にそれらを実践してみようということで歯磨き実習が行われました。
2人1組ペアになって、お互いの歯を磨く実習で、私は前の席のAちゃんと組むことになりました。Aちゃんは陽キャで、校則を堂々と破ってメイクしてきたり、さも当然かのように遅刻をしてくるような子だったのでクラスで目立っていましたが、とっても可愛かったので、そんなAちゃんに私は密かに憧れていました。可愛いし、きっと歯も綺麗なんだろうな…と思いながら始まった実習で、驚くべき光景を見たのです。
Aちゃんが口を開けた時、言葉を失いました。
素人でもひと目でわかるくらい大きな虫歯があちこちにあったのです。黒く、穴の空いてるもの。なかには、歯の原型をとどめてないものもありました。普通の人なら、引いていたと思います。でも私は歯フェチなので、引くどころか、ドキッとときめいてしまい、ますますAちゃんのことが好きになりました。とはいえ、あまりに悲惨なその歯たちを磨くのは怖くて、遠慮しながらも小さな声で「その…痛くない、の?」と尋ねると、Aちゃんは何事もないかのように「もう痛くない」と答えたのです。

当時は虫歯についてあまり詳しい知識がなかったので、痛くないとはどういうことなのか分かっていませんでした。今思うと、それはつまり『痛かったけれど、虫歯が進行しすぎて痛みを感じなくなってしまった』ということであって、ずっと辛かったろうな、たくさん我慢したんだろうなと思いながら、かわいいAちゃんが歯が痛くて泣いてる姿を想像してしまい、胸がキューッと愛おしく感じます。

後から知ったことなのですが、Aちゃんはかなりズボラな性格だったそうです。前日のメイクを落とさないまま登校してきたり、忘れ物もちらほらありました。宿題はいつもサボってました。なのできっと、歯磨きもしてない・忘れてしまうんだろうなぁ…と、思います。

Aちゃんは途中で退学してしまったので、今Aちゃんのお口の中がどうなってるのか、歯医者さんには行けたのかは分かりません。SNSが繋がっていますが、まさか本人にまだ虫歯を放置してるのか?なんて聞ける訳もなく、たまに上がってくる投稿やストーリーを見て、元気にやってる事だけ確認してます。
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