離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~

3. 存在するはずのない心 side千博

 部屋に入った千博は頭を抱えて大きなため息をついた。

「僕は何をやっているんだ……」

 完全なる無意識下の行動にひどく戸惑っている。自分でもなぜあんな行動に出たのかわからない。

 ただ美鈴の嬉しそうな笑顔を見ていたら、勝手に手が動いていた。なぜだかそうするのが自然な気がして、気づけば美鈴に触れていた。

 演じているつもりはなかったが、自分でも知らぬうちに過去の自分を演じていたのだろうか。もうそうする必要はないというのに。

 彼女と長く居すぎたせいで、愛し方までこの身に染みついてしまったのかもしれない。

 久しぶりに触れた人の温もりは千博には温かすぎて、のぼせてしまいそうなくらい千博の体温を上げる。体の中心部が熱くて、熱くて、火傷を起こしそうなほどだ。

 それはとても不快で、でも同時に心地よくて、千博を混乱させる。なぜだかもどかしくてたまらなくて、頭をガシガシと掻いてもう一度大きなため息をついた。

 そして、自分がこんな目に合っているのは、きっとあの男のせいだと独りごちる。

「手嶋の言うことに、耳を貸すもんじゃないな」
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