離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~

4. 乖離する思考と体 side千博

 寝室を後にし、自室に入った千博はドサッと己の身を椅子に投げる。机に両肘をついて、額を手に押しつけると、胸に溜まった息を吐き出した。

 そのまま何をするでもなく、物思いに耽る。

 美鈴には作業をしてくるなどと言ったが、そんなものは存在しない。ただ、あのまま美鈴といては自分が制御不能に陥りそうで、一人になる口実として口にしただけだ。

 千博はつい先ほどまでこの身で感じていた温もりを思い出す。

 ずっと足りなかった何かを埋めてもらえたような、探し続けていた答えを見つけたような、そんな感覚を夢の中で味わっていた。深い安らぎを覚え、とても心地のいい眠りについていた。

 目が覚めてもその心地よさは変わらず、脳が覚醒すると共に理解したのは、それが美鈴によってもたらされているということだった。

 ここ最近は美鈴に触れたい衝動をずっと堪えていたのに、昨日から抑えられなくなっている。

 そもそも触れたくなること自体おかしいのだ。そんな気持ちになる理由がない。唯一あるとすれば、それはやはり偽りの愛を演じていた頃の癖が抜けていないからだろう。

 だからこそ、千博は元の自分を取り戻そうと、あえて積極的に美鈴に関わるようにしていた。美鈴との会話を増やし、文化財巡りに誘い、そして、彼女をしかと見つめた。

 美鈴の微笑みや照れ顔を見ると、なぜか無性に美鈴に触れたくてたまらなくなる。それもきっと条件反射だからと、美鈴を見つめて慣れようとしたのだ。

 けれど、千博の症状が改善される気配は少しもなく、むしろひどくなる一方。触れたい気持ちは次第に大きくなっていった。胸が苦しくなるほどに。
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