離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~

3. 別の愛

 一人暮らしに適したサイズの座卓の上には家庭用のたこ焼き機。その周囲には生地と様々な具材が置かれている。

 美鈴と洋子はたこ焼きを作ってはそれを頬張り、火傷しそうと言いながらも次々に食していく。

 正統派のたこ焼きから、変わり種の納豆入り、果てはチョコレート入りのスイーツまで。バラエティーに富んだたこ焼きをアラサーの女二人で楽しむ。

 独身時代にもこうして洋子の部屋でたこ焼きを楽しんだことが何度かあるが、そのときと雰囲気は少しも変わっていない。美鈴はそれが嬉しかった。


 たらふくたこ焼きを食べた二人は、もうこれ以上は入らないと腹をさする。満腹感を逃すようにふーっと息を吐いていると、洋子が何気なく尋ねてきた。

「ねえ、相馬さんとは相変わらずの仲なの?」

 その問いに美鈴はわずかばかり体を固める。ここに来てすでに二時間は経っているが、千博の話題が出たのはこれが初めて。

 今日はなぜか洋子が千博の話題を振ってこず、美鈴もまたその話をするタイミングを計りかねていた。

 覚悟してきたとはいえ、やはりこの話題を口にするのは気が重い。他の誰かに言ってしまえば、どうしたって離婚を色濃く意識してしまう。

 それでも別れを受け入れて、これから前へ進んでいくにはこれも必要な過程だ。

 美鈴は己を奮い立たせ、その口を開く。
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