離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
第八章 感情の赴くままに

1. 醜さゆえの自覚

 胸の痛みを隠し、平静を装いながら千博と暮らす時間は、美鈴にとって苦痛であり、幸福ともいえる時間だった。

 愛を失うことはとてもつらく悲しく、千博と過ごす時間は痛みを伴う。けれど、その痛みと向き合える時間が美鈴にはあるのだ。突然何もかも失って、一人痛みに耐えるわけではない。痛みを受け止めるだけの猶予が与えられている。それは幸福なことと言えよう。

 千博との間の壁はもう意識していない。確かにそこに存在はしているが、それには触れず、今の距離を受け入れている。家族のようでいて他人のような、近くて遠い、今の距離を。

 離婚までもう残り半月。きっと痛みは消えないながらも、表面上は穏やかに最後のときを迎えられるだろう。

 美鈴はそう確信していたのに、その考えがあっけなく崩れ去ることになろうとは少しも想像していなかった。
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