離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~

2. 自覚した想いを胸に side千博

「お前は阿呆だな」

 会議直後に唐突に手嶋から発された言葉に、千博は顔をしかめる。

「は?」
「そんなに落ち込むなら、なんで離婚したんだよ」

 今ここには二人しかいないとはいえ、また会社でその話を始める手嶋に千博は冷たい視線を送る。

「いつも通りだろ」
「どこがだよ。仕事していてもまったく楽しそうじゃないだろ。美鈴ちゃんといた頃はあんなに生き生きしてたのに」
「……」

 自分が正しいと言わんばかりの表情をする手嶋に何か言い返してやりたいと思うものの、自覚があるだけに何も言い返せない。手嶋の言う通り、美鈴と別れてからは私生活だけでなく仕事にまで張りがなくなってしまった。

 何のために仕事をしているのかと考えてしまうほど、やりがいも気力も失っている。

 以前の自分に戻るだけだと思っていたのに、一度美鈴との日々を味わってしまってはもう元の自分には戻れなかった。とてつもなく尊い日々を過ごしていたのだと今になって思い知っている。
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