離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
第二章 偽りの愛はひどく切ない

1. 最低最悪の偽り

 軽やかなメロディーが室内に響き渡る。どうやら風呂が沸いたらしい。それを知らせるアナウンスもすぐに流れた。

 土曜の午後七時過ぎ。すでに夕食を済ませ、ソファーでゆったりとしている時間帯。

 美鈴は勉強を兼ねて英語の小説を読み、その横で千博は経済紙に目を通している。同じリビングにいながらも各々好きに過ごす。こういう時間が美鈴はとても好きだ。

 しかしながら、風呂が沸いたとなれば話は別。日々の楽しみにしているバスタイムは疎かにできない。最も適温になっている沸き立ての今入るべきだろう。美鈴はゆっくりとソファーから立ち上がると入浴の準備に向かった。

 千博を差しおいて自分が一番風呂にゆっくりと浸かるというこの状況。結婚当初はいかがなものかと思いもしたが、帰宅の遅い千博に合わせていると二人とも寝るのが遅くなってしまう。それはどちらにとってもよろしくないということで、気づけばこの形に落ち着いた。

 それにどうやら千博は入浴に関してあまりこだわりがないらしい。シャワーで済ませても構わない質だという。美鈴が快適に過ごせる方がいいからと言われ、休日であっても美鈴が先に入るのが当たり前になった。
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