離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~

2. 千博という人

 複雑な形状をした大きな池。その周囲の道もまた複雑な模様を描き、そこから延びる道はいびつに交差している。どこを歩いても新たな景色が現れ、道行く人を飽きさせない。

 道の周りでは様々な木々がその命を主張し、はるか上空から人々を見下ろしている。

 細長い葉をびっしりと枝に蓄えているあれは松の木だろうが、それよりもさらに背の高いあの木は何というのだろうか。植物に詳しくない美鈴にはわからない。

 それでも青々とした木々が作り出しているこの空間をとても美しいと思う。まるで生きているような庭園の姿に、美鈴は見惚れずにはいられなかった。


 都内にある旧財閥邸の庭園。あの約束のちょうど一週間後にあたる今日、千博がここへ美鈴を連れてきてくれた。文化財を一緒に見に行きたいという美鈴の要望に応えてくれたのだ。

 美鈴が自分からお願いしたこととはいえ、こうも早く叶えてくれるとは思わず、千博から誘われたときには随分と驚いたものだが、今はさらに別の意味で驚いている。

 事前に目的地がここであることは聞いていたものの、まさかここまで立派な日本庭園が現れるとはまったく想像もしていなかったのだ。

 誰かの家の庭くらいの認識でいたから、予想をはるかに上回る光景に言葉すら失っている。美鈴はずっと感心しきりで、この庭園に釘付けだ。

 隣にいる千博とまったく会話がないことも気にならない。むしろ今はこの繊細な庭園風景にただ静かに浸っていたいと思うほどだった。
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