逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第29話

 蓮さんは確かにエリートだけれど、日常では庶民的な感覚を持っている。だから私は、すっかり忘れていたのだ。

──彼が本当に、ハイソでハイスペな人だということを……。

 蓮さんが「大磯の別荘」と呼ぶその家は、思わず息をのむようなロケーションに建っていた。

 晩秋の陽が注ぐ高台の高級別荘地。木々の葉は(あか)(だいだい)、黄金色に色づき、まるで宝石のように輝いている。まるで子どもの頃に夢中で観た、海賊アニメの財宝の山みたいだ。

 ゲスト用の駐車場は少し離れていたので、私たちはその道を並んで歩いた。冷たく乾いた風が時折吹き抜けて、かすかに潮の香りを運んでくる。

 通り沿いには、重厚な日本家屋が立ち並び、そのどれもが、このノスタルジックな風景によく馴染んでいた。まるで時間の流れが、この一帯だけゆっくりになっているようだった。

「ここだよ」

 蓮さんが立ち止まったのは、これまで見てきた豪邸の中ではやや控えめな、和風建築の前だった。古民家を改装したような風情ある建物だ。

 門から玄関までは三十メートルほど。庭も広すぎず狭すぎず、庶民の私にはむしろこのくらいのスケール感のほうが落ち着けそうに思えた。

 けれど──玄関をくぐった瞬間、その考えはあっさり覆された。
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