逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第5話

 19時少し前に待ち合わせ場所に着くと、すでに彼が立っていた。

 夕日が彼の端正な顔立ちに柔らかく差し込み、長いまつ毛が瞳に美しい影を落としている。

 9月の澄んだ空気の中、スーツ姿で静かに佇む彼の姿は、まるで映画のワンシーンを切り取ったかのように孤高で、物憂げでありながらも美しかった。

 私は両手で頬を軽く2回叩き、自分に気合を入れた。そして彼の前まで歩み寄った。

「こんばんは」

 深い色の瞳が私を見つめ、まるで全てを見透かしているかのようだった。鼓動が早くなるのを感じながらも、私は必死に平静を装う。

「ああ、こんばんは。来てくれてありがとう」

 私は、手に持っていた紙袋を彼の胸元に押し付けた。

 中身は、さっきデパートで買った老舗和菓子店の最中(もなか)。化粧箱入りの贈答用を選び、「お礼」の熨斗(のし)まで付けてもらていった。

「これは?」

「昨日のお礼です。助けてくれてありがとうございました。どうぞ皆さまでお召し上がりください」

 彼は一瞬驚いたような表情を見せた後、横を向いてくすっと笑った。その瞬間、彼の美しい顔が少し幼く見え、柔らかい魅力が増したように感じられた。
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