逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第6話

 質問……。この人に、聞きたいことは……。

「なぜ、そんなに急いで結婚しなければならないんですか?」

 彼はゆっくり瞬きをした。一瞬、その目が冷たく光った気がした。昨日も垣間見た、すべてを拒絶するかのような冷たい瞳──。

 だけど、それはほんの刹那だった。すぐに、さっきまでの柔らかな笑顔が、何事もなかったかのように戻ってきた。

「……うちはいわゆる旧家でね、跡取り問題が常に付きまとっているんだ。兄は早々に逃げてしまって、僕に見合い話が来るようになった。だけど、家のために結婚させられるなんて、正直耐えられない」

 その言葉に、私は頷いた。私の田舎でも、たまにそういう話を聞く。時代遅れだとは思うけれど、現実にまだ残っている問題なのだ。

「でも、それって結局、家のための結婚と変わらない気が……」

「そう、だからこそ、1年間の契約結婚でどうだろう。ほとぼりが冷めるまでの間だけでいいんだ」

「はぁ?」

 あまりに唐突な提案に、思わず声が出てしまった。

 そういえば、さっき蓮さんは「1年間」がどうとか言っていた気がする。

 でもその時、茄子(なす)田楽(でんがく)のあまりの美味しさに、私の感覚はすっかり支配されていて、蓮さんの言葉は正直あまり耳に入ってこなかった……。
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