逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第54話

 祐介が待ち合わせ場所として指定したのは、まるで昭和で時が止まったかのような、小さな料理屋『古美多(こみだ)』だった。

 壁一面に短冊型の手書きメニューがずらりと並び、その間には色褪せたビール会社のポスターが貼られている。

 古びた木製のカウンターと10卓ほどのテーブルはほぼ満席だ。醤油と出汁の香りがほのかに漂う店内に、常連客たちの笑い声が響き、温かい活気に満ちていた。

 私が店に入ると、バンダナで髪をまとめた若い女性が「いらっしゃい!」と、元気よく声を張り上げた。

「お一人さま?」

「いえ、待ち合わせです」

 店内を見回すと、カウンターの隅から祐介が手を振っているのが見えた。私も手を振り返し、彼の隣の席に腰を下ろす。

「もう一人来るって言うから、伊吹くんだと思ってた! こちらのきれいな方、もしかして祐介くんの彼女?」

 店の女性が私の前におしぼりを置きながら、笑顔で尋ねてきた。

「いえ、姉なんです。いつも祐介がお世話になっています」
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