逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第60話

 玄関前でいつまでも立ち尽くしていたら、不審者に思われるかもしれない。私は小さく息をついて、鍵を開けた。

 リビングからは、祐介と蓮さんの楽しそうな声が聞こえてくる。

「──登場人物が困難から立ち直るきっかけとして描かれることも多いよね。主人公がボロボロになったところで飲む一杯のスープは、ただの食事以上の意味があったりするように」

「うん、それわかる。なんていうかさ、状況とか登場人物の心情を伝えるための万能ツールみたいに機能している感もあるよね。だからいろんな形でストーリーに組み込まれて──あ、姉ちゃん、おかえり」

「ただいま」私はできるだけ平静を装って答えた。「楽しそうね。何の話をしてるの?」

 二人は顔を見合わせ、同時に言う。

「スープ」

「……そう」

 ちょっと聞こえた話からして、文学に登場するスープについて語り合っていたのだろう。でも、この二人が言うと、妙に美味しそうに思えるから不思議だ。

「ちょっとお腹が空いちゃった。夜ご飯なに?」

 またしても二人の声が重なる。

「スープ」
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