逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第11話

 朝食の片付けが終わると、蓮さんが緑茶を淹れてくれた。

 蓮さん愛用の湯呑みは、土肌に青いビードロ釉が少しだけ掛けられた信楽焼。本人は「お茶の緑色がよく映えるから気に入っている」と言っていたが、その温かみと洗練は、まるで彼自身を表しているように感じられた。

 一度湯を沸かし、少し冷ました後、急須に静かに注ぐ。茶葉がゆっくりと開くのを待って、湯呑みに移した。

 その流れるような所作は、思わず見とれてしまうほど美しかった。

 渡されたお茶からは、上質な茶葉の甘くふくよかな香りが漂っている。私は目を閉じてその香りを深く吸い込んだ。

 気持ちのいい秋晴れの日。蓮さんと私は、縁側に並んで緑茶を飲む。まるで本当の夫婦みたい──定年退職した後の。

 私はちらりと蓮さんの横顔を盗み見た。

 彫りの深い端正な顔立ちは、湯呑みを持つ姿も絵になる。改めて、蓮さんはとてつもなくハンサムだと感じた。

 ふと、思いもよらなかった気持ちが沸き上がってきた。

 ……頬に、触れてみたい。
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