逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第76話

 祐介をソファに座らせてから、譲原さんは内線で飲み物を注文した。ほどなくして、先ほど受付にいたスタッフが、静かにトレーを運んできた。

 私はカップを両手で包み、ゆっくりとコーヒーの香りを吸い込む。(こう)ばしい香りが鼻腔を満たし、ほんの少しだけ緊張が和らぐのを感じた。

 祐介の前には、仕事の打ち合わせでいつも飲んでいるミルクティーが置かれていた。しかし、彼はそれに手を伸ばすことなく、膝に肘をついたまま深くうなだれている。

 譲原さんは、彼のティーカップの横にグラニュー糖のスティックを添え、穏やかな声で言った。

「春木先生、いつもおっしゃっていますよね。『書けないときは甘いものが助けてくれる』と。今も同じです。まずはお茶を飲んで、少し落ち着きましょう」

 祐介はゆっくりと顔を上げた。その顔は気の毒になるほど憔悴していたが、譲原さんの言葉に促されるように、カップを手に取った。

「……譲原さん、姉ちゃん、すみませんでした。まさか、こんなことになっていたなんて……」

「祐介」

 私が声をかけると、彼は力なくこちらを見る。

「私も、祐介がダークレイス社に映像化を持ちかけたとは思っていないよ。でも、何か事情があるのなら話してほしい」

 祐介は小さく頷き、両手で顔を覆った。そして、深く息を吐き出しながら、ぽつりと話し始めた。
< 493 / 531 >

この作品をシェア

pagetop