逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第78話

「ただいま」

 スーツのジャケットを脱ぎながら、蓮さんが言った。

「祐介くんは?」

「疲れちゃったみたいで……主寝室で寝てる」

 そう答えると、蓮さんの視線が閉じられたドアに向けられ、次に私をとらえた。短い沈黙のあと、彼は静かに「そう」とだけ言って、私から視線をそらす。

 その仕草に、胸が締め付けられた。蓮さんは──怒っているのだろう。私の顔をまともに見たくないほどに。

 それがわかっても、逃げるわけにはいかなかった。私は両手をぎゅっと握りしめ、思いきって口を開く。

「蓮さん、ダークレイス社と春木賢一朗、それからねこつぐらの件……知里さんから聞いた?」

 蓮さんはゆっくりとソファに腰を下ろし、「うん」と短く答えながらネクタイを緩めた。……まだ、視線を合わせてはくれない。

「広瀬さんも随分と塞ぎ込んでいたから、半休を取って、午後は家で休んでもらったよ」

 私の手を払い除けたときの知里さんの表情が、脳裏をよぎる。深く傷ついた彼女の目を思い出し、胸が痛んだ。

「……こんなことになって、ごめんなさい」

 膝に肘をついて小さく息を整えると、蓮さんはようやく私の顔を見た。

「何があったのか……話してもらえる?」

 その問いに、私は目を閉じる。
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