本当の愛を知るまでは
青天の霹靂
「あれ? なんか様子がおかしくない?」

その日の午前中、花純は千鶴と一緒に都内一円の店舗を回る予定でオフィスを出た。
ロビーを横切り、セキュリティーゲートにIDカードをかざして通り抜けると、ガラス扉の向こうに大勢の人が待ち構えているのが見える。

「ほんとだ。何だろう? 用があるなら入ればいいのにね」

花純がそう言うと、千鶴は人差し指を立てる。

「あれじゃない? 出待ちってやつ」
「それって、アイドルとかの? うちのオフィスビルにそんな人いないよ」
「いるじゃない。上条社長!」
「えー? まさかそんな」

笑って否定しながら自動ドアの外に出ると、花純と千鶴は一斉に詰め寄られた。

「すみません、クロスリンクワールドの社員の方ですか?」

はっ?と二人で立ち止まる。

「違いますけど」
「上条社長をご存知ですか?」

今度は二人してハッと息を呑んだ。

「知りません。行こう、花純」
「うん……」

千鶴に手を引かれて、花純は人だかりの間を通り抜ける。
心臓がうるさく高鳴り、嫌な予感に身体がヒヤリとした。

「どういうこと? 花純、上条さんに何かあったの?」

オフィスビルを離れると、後ろを振り返りながら千鶴が尋ねた。

「ううん、知らない。今朝もいつもと変わらず7時に一緒に出社して、エレベーターで別れたよ」
「そう。何か連絡とかないの?」
「えっと、待ってね」

カバンからスマートフォンを取り出してみると、光星からの着信履歴があった。

「あ、光星さんから電話あったみたい。マナーモードで気づかなかった」
「かけ直してみたら?」
「うん。千鶴ちゃん、ちょっとごめんね」

花純はすぐさま光星に電話をかけるが、話し中になる。
何度かけ直しても同じだった。

「どうしたんだろう。取り敢えずメッセージ送ってみる」

アプリを開くと『電話に出られなくてごめんなさい。何かありましたか?』と送っておいた。
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