本当の愛を知るまでは
やり手の社長
「えーっと、これで大体のところは終わったかな?」

部長と一緒に挨拶回りをしていた花純は、フロアマップを広げて頷いた。

「はい。あとは51階と52階のオフィスだけですね」
「あー、クロスリンクワールドか。なんか緊張するな。噂ではかなりやり手の社長らしいからな」
「え? 部長、この会社のことをご存知なんですか?」
「もちろん。知らない人の方が少ないよ」

花純は、え……と言葉に詰まる。

「森川さんだって、当然知ってるでしょ?」
「いえ、それが存じ上げなくて。すみません」
「いやいや、絶対知ってるって」

そう言うと部長は、スーツのポケットからスマートフォンを取り出した。

「このSNSも、こっちのフリマサイトも、あとはこの動画配信アプリも、全部クロスリンクワールドが作ったんだよ」
「えっ、ええー!?」

花純は驚いてまじまじと部長のスマートフォンに見入る。
どのアプリも、花純もずっと前から使っているものだった。

「これを全部同じ会社が作ってたんですか?」
「そうだよ。クロスリンクワールドは、ソフトウェアやプラットフォーム業界においては最大手だ。コンサルティング、クリエイティブ、テクノロジーの3本柱で業績を大きく伸ばしている。社長もかなり若手なんだよ。時代の流れを読むのが上手くて、常に1歩先のビジネスに着手する。頭がいいのはもちろんだけど、なんて言うか、ビジネスセンスがいいんだろうな」
「そうなんですね。そんなすごい会社がこの上に……。あ、ですが部長。51階と52階は、関係者以外立ち入り禁止のようです。エレベーターすら乗れないみたいで」

そうなの?と、部長は立ち止まる。

「じゃあ、アポ取ってから出直すか」
「はい。私から連絡しておきます」
「頼むよ、ありがとう」

そして花純は部長と一旦オフィスに戻った。
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