本当の愛を知るまでは
二人で積み重ねていこう
「じゃあねー、花純。滝沢も」

バーを出ると、駅で千鶴と別れる。

「おやすみ、千鶴ちゃん」
「杉崎さん、ナンパしないで真っ直ぐ帰りなよー」

バーカ!と笑いながら、千鶴は手を振って反対のホームに向かった。

「行こっか」

方角が同じ滝沢と一緒に電車に乗る。
動き出した車内で、滝沢が聞いてきた。

「森川さん、なんかあった?」
「どうして?」
「なんか……、元気なさそう」
「そう? いつもと同じだよ。それより滝沢くん、その後、就活はどう?」
「あー、それなんだけどさ」

滝沢は吊り革に掴まりながら、宙に目をやる。

「就活、やめた」

えっ!と声を上げそうになり、かろうじて呑み込んだ。

「そっか。タイミングとか、条件もあるしね。じっくり探したらいいんじゃない?」
「そうじゃなくてさ、決めたんだ。俺、今のカフェの正社員になる」
「えっ、そうなんだ!」

今度は素直に驚く。
自然と笑みがこぼれた。

「そうかー、滝沢くんが正社員に。なんだか私まで嬉しい! ずっと会えるんだね、これからもよろしくね」
「ああ、こちらこそ。気持ち決められたのは森川さんのおかげ」
「そんなことないよ。滝沢くんが自分にしっかり向き合ったからだよ。おめでとう!」

笑顔を向けると、滝沢も照れたように笑う。

「あ、じゃあ私、この駅で降りるね。おやすみなさい」
「おやすみ、森川さん。帰り道気をつけてね」
「ありがとう!」

手を振って電車を降りたあとも、花純の心はポカポカと温かかった。
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