本当の愛を知るまでは
初めての旅行
「花純、おはよう」
「おはようございます、光星さん」

2日後、旅行の日がやって来た。
朝、花純のマンションに車で迎えに来た光星は、ラフな半袖シャツに軽い素材のサマージャケットを羽織っている。
花純の手から荷物を受け取り、車のトランクに入れる光星に見とれた。

「なんだか新鮮です。光星さんの私服姿」
「そう? 花純のワンピース姿もめちゃくちゃ可愛い」
「え、ありがとうございます」

花純は気恥ずかしさにうつむく。
オフホワイトのワンピースは、スカートの裾や袖口と襟が黒のバイカラーになっていて甘すぎない。
髪はサイドを編み込みにして、ふわっと緩くまとめた。

「どうぞ、乗って」
「はい」

光星が開けてくれたドアから助手席に乗ると、運転席に回った光星は改めて花純に笑いかける。

「花純と旅行なんて、最高に嬉しい」
「私もです。お仕事は大丈夫でしたか?」
「ああ。夕方、少しだけオンラインミーティングに参加しなきゃいけないんだ。その間、花純はエステに行っておいで。予約入れておいたから」
「えっ、いつの間に?」
「楽しみすぎて、あれこれ予定を立ててしまった。勝手にごめん。迷惑だったか?」
「ううん、嬉しいです」
「良かった。じゃあ、出発しよう」

平日の早朝は高速道路も空いていて、快適なドライブを楽しむ。

「光星さん。コーヒー、ここに置きますね」
「ありがと」

缶コーヒーをドリンクホルダーに置き、花純は光星の横顔をそっと盗み見る。

「ん? 俺の顔に何かついてる?」
「え、ううん」

花純は慌てて視線をそらした。

「なんだか、ちょっと不思議な気がして。私、ほんとに光星さんと旅行に行くんだなって」
「実感湧かない? じゃあ、あとで片時も花純を離さないでおこう」
「そんな、どうぞご無理なさらず」
「ははっ! 俺がそうしたいんだよ」

楽しそうに笑う光星につられて、花純も笑顔になる。

(私、ちゃんと光星さんの彼女にしてもらったんだよね?)

もう最初の頃のような寂しさは感じない。
ようやくデートを楽しいと思えるようになっていた。
その一方で、おとといの滝沢の告白が頭から離れない。

(もちろん滝沢くんとはつき合えない。だけど、今すぐ返事するなって言われたら……。いつ言えばいいの?)

俺をちゃんと一人の男として見てから、と言われても困るだけだった。

「花純? どうかした?」
「あ、ううん。何でもないです」

光星に聞かれて咄嗟に首を振る。

(今はとにかく光星さんとの時間を大切にしよう)

そう思い、気持ちを切り替えた。
< 61 / 127 >

この作品をシェア

pagetop