知らずに双子パパになっていた御曹司社長は、愛する妻子を溺愛したい

序章

朱莉(あかり)、だよな」

 少し緊張がまじった固い声。尋ねるのではなく、断定する口調だった。
 振り返らなくてもわかる。まさか、また会ってしまうなんて。
 逃げ出そうと駆け出した瞬間、腕を掴まれて制された。

「は、離してください」

 周りから不審に思われないように、小さな声で抗議する。

「待ってくれ。お願いだ、話をしよう」

 高御堂(たかみどう)さんは切迫した表情で頼み込む。
 どうしよう、今は駄目。子どもたちがいるのに。
そうだ、琥珀(こはく)はどこ?
 顔を上げると、瑠璃(るり)がぽつんと不思議そうに佇んでいる。
琥珀は? どこ?

「ぱあぱ?」

 いつの間にそこにいたのか、琥珀は高御堂さんのスーツジャケットの裾を掴み、彼を見上げていた。
 高御堂さんと同じく艶やかな黒髪に、顔の形も目も、鼻も、薄い唇までもそっくりだった。まるで、ミニチュア版のようなその姿に、高御堂さんは目を見開いて驚いている。
 どうしよう、出会ってしまった。なんて言い訳をすればいい?

「まさか、その子たちは俺の子か?」

 高御堂さんの言葉に、一気に血の気が引いていく。
 冷静さを失った私は、咄嗟に口からでまかせが飛び出る。

「あなたの子ではありません!」

 誰がどう見たって嘘だとわかる言葉を、よくもこんなに堂々と言えたものだと我ながら感心する。
 でも、認めるわけにはいかないのだ。大切なあなたのために。
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