知らずに双子パパになっていた御曹司社長は、愛する妻子を溺愛したい

第三章 雲霄

地上三十六階、最上階の大きな窓辺に立った俺は、煌めく星屑のように広がる眼下の夜景を見下ろしながら眉根を寄せた。

――忘れられない女性(ひと)がいる。
 大学院二年目の秋に、交換留学ができる大学の協定校でMBAプログラムを学ぶためにアメリカに渡った。

 二年の歳月を経て、無事にMBAを取得することができ、大学院に戻り卒業論文を書き上げ卒業。
 それから祖父の会社で常務として働き、経営を引き継ぐべく研鑽を積む毎日を送っていた。

しかし、その頃から祖父の持病が悪化し始めた。
予定よりもだいぶ早く会社を引き継がなければいけなくなったため、まだ地盤固めができていなかった。

役員や株主の反対意見もあり、一時は別の人が社長就任する流れに追い込まれていたが、俺がアメリカで培ってきた地道な交流が実を結び、海外企業と大型契約を結ぶことができた。そのことにより、下馬評を覆して俺が社長に就任する運びに収まったのだ。

それから目まぐるしい日々を送っていたが、ようやく落ち着き、経営状態も上向いている。

 幼い頃からの夢を叶えたにも関わらず、俺の胸は空虚さが消えない。
 俺が欲しかったものは、地位でも名声でもお金でもなかった。
俺が本当に欲しかったものは……朱莉、君なんだ。
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