残念姫、王子に溺愛される
一目で惚れる
一年前の4月。

大学在学中から父親の会社で働き、今月から正式に役員として働くことになった歩稀。

今日はその挨拶も兼ねて、パーティーに出席していた。
歩稀は、これが初めてのパーティー出席で少し緊張していた。

「――――では、よろしくお願いします……!」

先程から、微笑み何度も頭を下げてばかりで、首と口角が痛い。

一通り挨拶が済み、歩稀は飲み物を持って窓際に向かった。

「………」

あぁー、煙草吸いたい………
なんで俺が、こんなペコペコしないといけねぇの…!!
つか!“紳士”なんて、一番俺に似合わねぇし…(笑)

そんな事を考えながら、窓の外をボーっと見つめていた。

すると背後で、ガッシャーン!!!とグラスが割れる音が響いた。

思わず振り向くと、給仕係がどこかの令嬢にぶつかり持っていたトレーを落としていた。

その令嬢こそが、恋羽である。

「も、申し訳ありません…!!!」

「いえ、大丈夫ですよ!
それより、お片付けしないと…」
そう言って、片付けを手伝おうとしている。

周りの人間達が冷めたように見つめる中、ぶつかられた恋羽だけが、落ち着かせるように声をかけながら片付けを手伝っていた。

歩稀はなぜか、恋羽から目が離せなかった。

「え……あ…」
(手…)

よく見ると………恋羽は手首に、小さな切り傷を負っていた。

「本当に、申し訳ありませんでした!
お召し物をすぐにお取替えした方が……
クリーニング代もお渡ししますので!」

支配人が丁寧に頭を下げるのを断り、恋羽は会場を出ていった。

「ねぇ、すぐに救急箱を用意して」

歩稀は近くにいた会場の従業員にそう言って、恋羽を追って会場を出た。

恋羽は、会場出てすぐのソファに腰掛けていた。

ハンカチで傷口を押さえ、誰かに電話をかけようとしていたのだ。

「大丈夫ですか?」
歩稀が声をかける。

「え?
………あ…!!聖王様!?
本日は、おめでとうございます…!」

慌てたように立ち上がり、丁寧に頭を下げてきた恋羽。

「そんなことより!
君、怪我してるよね?」

「え!?」

「見せて?」

「あ…だ、大丈夫です!」

「ダメ。
見せて?」

隠そうとする手を優しく掴み、傷の具合を診た。



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