超人気美男子の彼女になった平凡女は平和な交際を求めて苦悩する

第1話 プロローグ

「じゃぁ、また明日」

テラスがそう言うと、優しい目をしたアンセムの顔がふっと近づいてきた。
一瞬構えてしまう。
だけど、逃げはしない。
アンセムの唇が、やさしくテラスの唇に触れる。
心臓がドキドキする。
ほんの数秒だけのキス。
アンセムが離れると、テラスは目を開けた。

「はぁ」

思わずため息が出た。
アンセムとテラスが付き合い始めて2週間が経った。
別れ際にいつも優しいキスをしてくれるアンセム。
嬉しいけど、やっぱりまだ慣れない。
未だに緊張して、どのように答えたらよいのかわからない。

「バイバイ」

だから、テラスは笑顔を作りつつも、逃げるように談話室の部屋を出て行った。

「ふぅ」

テラスに手を振って見送った後、アンセムは思わずため息をついた。
キスだけじゃ足りない。
それが正直な気持ちだった。
本当は、抱き締めたい。
もっともっとキスをしたい。
当然セックスだってしたい。
深く深く交わりたい。

しかし、相手はテラスである。
ようやく振り向いてもらえたのだ。
急いで求めて泣かせるのは本望ではない。
あの笑顔だけで、もう暫くはいいじゃないか。
アンセムは自分に言い聞かせる。

まだキスをする瞬間、一瞬緊張を見せるテラス。
それでも、少し恥ずかしそうなはにかんだ最高を見せてくれる。
それだけで充分だ。
< 1 / 346 >

この作品をシェア

pagetop