超人気美男子の彼女になった平凡女は平和な交際を求めて苦悩する

第38話 司書は美男子にエールを送る

「アンセム、やっぱりもう付き合えないよ」

テラスに冷え切った眼差しを向けられ、アンセムは言葉を失った。

「だって、嫌なのに無理矢理キスしたりセックスしようとしたりさ。もうついていけないよ」

「もう二度としない。だから…」

声を絞り出すアンセム。

「今さらそんなこと言われても、無理なものは無理。今から他人だからね」

引き止めなければ。
そう思うのに声が出ない。体も動かない。

「じゃあね。バイバイ」

(テラス!待ってくれ!!!)

ガバッとベッドから身を起こすアンセム。

「……夢…?」

テラスが部屋から出ていったあと、深夜になっても眠れず、ようやく眠りについたと思ったら最悪の夢で目が覚めた。
心臓がドキドキしている。
時計を見ると朝7時だった。まだ2時間も眠れていない。

それでもベッドから出て身支度を始めた。
今日は午前中に授業があり、午後は品種改良の畑の手入れをしなければならなかった。
どん底スタボロの精神状態でも、日常は容赦なくやってくるのだ。
その日、アンセムは鬱々とした気持ちを抱えたまま、1日をやり過ごした。
夕食を品種改良の仲間たちに誘われたが丁重に断り、食堂で食べ物をもらい、すぐに部屋へ戻った。

部屋にいる間、何度か電話と来客があったが、今日もやはり無視した。
とにかく、1人になりたかった。そっとしておいてほしかった。

テラスには会いたかったが、こんな状態で会って、また嫌な思いをさせてしまうかもしれないと思い、行動に移せなかった。
夢が現実になりそうで怖かったのだ。

明日は前々からカイに手伝いを頼まれていた日だ。

(行きたくない…)

カイが自分の知らないところで何を知って、誰に何を言っているのかわからないが、シンを呼び出したことが、どうしても心に引っかかっていた。
ずっと味方だと思っていた人に裏切られたような感覚だった。

次の日、それでもアンセムは約束の時間に図書館を訪れた。
こんなとき、妙に真面目な自分の性格を呪いたくなる。
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