超人気美男子の彼女になった平凡女は平和な交際を求めて苦悩する

第55話 困惑する平凡女と不幸な美男子

さて、忘れちゃならないが、テラスとアンセムは今も本棚を挟んだ向こう側にいる。
まさかの展開に、テラスは冷や汗ダラダラだ。
今更出て行くこともできない。
蔵書室に戻ろうとして物音がたつのも困る。
ということは、情事が終わるまでひたすら待つしかない。

アンセムはナミルのことを考え、視界に決して入らないように向きを変えた。
テラスもそれに習うが、声が聞こえてくるのはどうしようもないのである。
どうにもならない空気に、テラスはアンセムとも距離をとって、床一点を見つめていた。
早く終わって~!と祈りながら。

しかし、気持ちが通じ合ったばかりで盛り上がっているのだから、早く終わるはずがないのである。
色々な声と音が聞こえてくる度に、テラスは消えてしまいたくなった。

「ぃたっ!」

「わりぃ…」

「焦らないで、優しくして…」

なんて会話の後、チュッチュと聞こえてきたりするのだから。

テラスはチラっとアンセムを見た。涼しい顔をしている。
彼にとっては、大したことではないのだろう。
聞こえないように小さくため息をつくテラス。

「あ…あぁっ!」

暫くしてナミルが高く声を上げた。

「ナミル・・・!」

彼女の名前を呼びながら、シンの息遣いが荒くなる。
それに合わせるように、ナミルの声も切なくなっていった。

(勘弁してーー!!!)

テラスは居た堪れなくて泣きたくなった。
もうアンセムの顔も見れない。
膝を抱えてうずくまり、声が耳に入らないように生物学の式を頭の中だけで唱え続けた。
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