それは麻薬のような愛だった
告げる覚悟
⿻*⌖.:˚◌˳



「ごめん、雫」


伊澄に抱きしめられながら、雫は混乱していた。

その声は酷く震えていて、何に対して謝られているのか理解が出来なかった。


「俺…また何か間違えたか」


伊澄が何を言っているのか分からず言葉が出なかった。返す言葉が見つからず呆然と立ち尽くしていると、伊澄の泣きそうな声が再び耳をつく。


「俺はまた、お前を傷つけるようなこと、しちまったのか」

「な、に言って…」

「ごめん」


再び紡がれた謝罪の言葉に、今度こそ頭が真っ白になった。


「傷付けて、ごめん」

「いっちゃ…」

「謝ったってどうしようもないのは分かってる。言い訳もしないし、嫌われたって仕方ない。…だけど俺は、雫から離れたくない」

「……」


思い返してみても、これまで伊澄がこれほど饒舌であったことなど無かった。

雫の記憶の中の伊澄はいつだって無表情を貫いていて、言葉も少なく愛想もない。正直会話した数より体を重ねた数の方が多いんじゃないかとさえ思う程に。

ふと気付けば、自分を抱き締める体も小刻みに震えてるのに気付いた。


「お前を傷付けて、壊しておいて都合がいいなんて百も承知だ。…けど、お願いだ」


そこでゆっくりと身体が離れ、漸く伊澄の顔がはっきりと見えた。


「俺を、捨てないでくれ」

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