それは麻薬のような愛だった
夢のあとさき -side 伊澄-
雫への渾身の愛の言葉と交際の申し出、果てにはプロポーズを同時に行った伊澄のその後は怒涛の日々だった。
雫は悪阻が重く、更に二度目の通院で切迫を医師から告げられ安静と点滴の為に入院を余儀なくされた。
心配でたまらなかったが毎日取り合う連絡の中でひとまずは母子共に異常なしとの報告を受け、少し気持ちの落ち着いた伊澄はその間に一度自分の両親へ諸々の報告の為に帰省した。
案の定、雫との結婚には両手を挙げて喜んだ母親だったが妊娠を告げると言葉より先に鉄拳が伊澄の脳天に落ちてきた。
「あれほど度を超す行動は慎めっつったでしょうが!!」
それを皮切りに小一時間説教を受け、最後の方には流石に言葉の尽きてきた母親は頭を抱えだした。
「もうホント、何であんた達親子はそんなところまで似るのよ…!」
「どういう意味だよ」
「アンタの父親に聞いてみなさいよ」
母から言われ伊澄が父に視線を向ければ、それまで母に説教を任せ黙っていた父は途端に視線を逸らす。その行動だけで、聡い伊澄はあらかたを察した。
「ったく親子揃ってホントどうしようも無い…!ああもう…杜川さんに何てお詫びすればいいか…」
「つまり親父とお袋もデキ婚ってわけか。説得力の欠片もねえな」
「お母様とお呼びこのロクデナシ!」
自身を棚に上げた発言に再び拳の制裁を喰らった伊澄は殴られた部分を撫でながら両親を交互に見つめる。
なんとも言えない顔で茶を啜る父の横で頭を抱えていた母はしばらく唸った後顔を上げると、射殺さんばかりに睨んできた。
「伊澄あんた、雫ちゃん達に平身低頭土下座して謝んなさいよ」
「分かっとるわ」
伊澄に覚悟がある事をそれなりに察した母は深くため息をつくと、雫の状態を尋ねた。
切迫で入院中だと告げると更に顔を歪ませ「可哀想に…」と雫を労る言葉を吐き出す。
「今後あんた達夫婦が喧嘩しても、私は雫ちゃんの味方につくからね」
「へーへー」
母に言われ伊澄は至極適当に返事をしたが、それがまさかのフラグになるとは思いもしていなかった。