それは麻薬のような愛だった
愛をつむぐひと

また少し時が経ち、雫は無事に臨月を迎えた。
正産期と呼ばれる時期に入った頃には雫は実家に里帰りをしていた。

すっかり大きくなったお腹は少し動くだけでもひと苦労で、毎夜毎夜お腹の中から蹴り上げられ驚きと痛みで目を覚まし寝不足が続いていた。

実家に帰ると両親は娘の帰省と初めての孫の誕生を心待ちにしているのかとても喜び、時折伊澄の母もそこに加わり女子会が開かれることもしばしばだった。


出産に立ち会いたいという伊澄の希望もあり計画無痛分娩の予定であり、両家の母と伊澄の父が勤める病院での出産ともあって雫は心穏やかに過ごしていた。


「いよいよ明日だねえ。雫ちゃん、これまで大変だったでしょう?」


前日から検査の為に入院していた雫の元に、仕事上がりだった伊澄の母が帰宅前に見舞いに来てくれていた。


「はい。心配してたのが嘘みたいに元気な子みたいで、暴れ回るからあちこち痛くて少し大変でした」

「なにそれ伊澄そっくり!あの子も大暴れしてて大変だったのよ〜。それで、その本人はいつ来るのかしら?」

「ちょっとトラブルがあったみたいで。けど明日促進剤入れる前には来てくれるって言ってました」

「そう。なら良かったわ」


伊澄の母は看護師の性なのか、スタンドから下がる点滴をチェックしながら話を続ける。


「それにしても、杜川さんから聞いたけど赤ちゃんの服、雫ちゃんが全部作ったって本当?すごいね」


その問いかけに、雫は照れながら「はい」と言葉を返す。


「動けない時期も長くありましたし、家のこともほとんどいっちゃんがしてくれてたので、手慰みに何着か作ってみたんです」

「伊澄が…それは感心ね。ホント一体誰の子を必死で育ててるんだって話なんだから」

「いえそんな…。寧ろいっちゃんの方がなんでも上手で、申し訳ないくらいです」

「気にしなくていいのよそんなこと。伊澄が特別神経質なだけなんだから」


あの子が家にいる時は色々と気を遣ったわ、と伊澄の母は呆れながら肩をすくめた。

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