それは麻薬のような愛だった
見えない心
年末は年末調整期なので税理士事務所は忙しい。
雫の勤める中規模事務所ももれなく繁忙期に入り、契約している個人事業主や小さな事務所などの多くから業務依頼を受け残業を余儀なくされた。
入所4年目である雫も慣れてはきたが年々任される担当も責任も増えてきており、休み直前には連日連夜の残業が続いた。
そんな怒涛の日々を乗り越え、仕事納めを迎えた頃にはすっかり力尽きていた。
例年の如く休暇初日は泥のように眠り、その翌日に新幹線で数時間かけて実家に帰省する。
二十歳以来、毎年夏と冬の長期休暇には地元に帰るようにしていた。今回も冬季休暇を利用して年に2度あるうちの1回となる実家で、雫はこれ幸いと怠惰を極めていた。
仕事も家事もせずただひたすら母の料理を食べて寝て過ごし、年を越す。カレンダーの都合上今年の仕事始めは遅くいつもより長く実家へ身を置く事にしたが、その結果雫は増える体重と自由な時間を持て余す事となった。
それ故、人間とは暇が出来ると余計な事を考えるものだなと、痛感していた。
「——痛っ…」
ちくり、と指先に小さな痛みが走る。
帰省したとはいえ特に出かける予定もない雫がする事と言えば私室で趣味に勤しむこと。
しかし余計な考えを巡らせていたせいで針の先を指に刺してしまった。
「…はあ…」
ぷくりと浮かぶ赤い液体に小さく息を吐く。
痛みこそ大したことはないがこれではせっかく作った衣装を汚してしまう。
そう思い、雫はリビングにあるであろう絆創膏を取りに行こうと立ち上がった。