それは麻薬のような愛だった
静かなる失望
その期待があっさりと裏切られたのは夏休みが明けてすぐの事。
伊澄に新しい彼女ができたと知った時だった。
それまで数日とおかず届いていたメッセージが一切無くなり、やっぱり遊ばれたのだと胸が痛んだ。
けれどそれほど引き摺りはしなかった。告白を受けた訳ではないし、心のどこかで薄々そんな気はしていた。
だから一夏の夢を見させてもらったのだと、数ヶ月も経つ頃には痛む胸もすっかり収まっていた。
「…え?」
ただし想定していたのはそこまで。たまたま帰宅が重なり、一人なんて珍しいねと言えば伊澄から彼女と別れたことを聞かされた。
「他に男がいるんだと」
「そうなんだ…それは悲しいね」
すっかり秋の気が強くなり、冷たい風が2人の間を吹き抜ける。少し前に夏のブラウスから衣替えでセーラー服へと変わった制服が肌を守ってくれてはいたが、なぜか震えは止まらなかった。
どうして、と。雫は通学鞄を強く握った。
なぜ伊澄と付き合えていながら、他の男なんかに目移りできるのだろう。どうして自分が欲しくてたまらない位置を、そんなにあっさりと手放せるのだろう。
そう思うと、嫉妬で震えた。