ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~

溢れる涙

 伸びてきた安積さんの手。

 冷たいと、言っていたはずの指先が熱いのはどうして?その指先が目尻を撫でる。

「……ご、めんなさい」

 泣かないと決めていた。
 きっと泣くのは一番安積さんが困るだろうと思っていたからだ。涙で誘って同情みたいになるのも嫌だった。

 そんな風に安積さんの気持ちを押し殺させたくなかったから。なのに……。

 (どうしよう……涙が……)

 泣いてしまう。涙が止まらない。でもこの涙の意味は……嬉しくてなんだ。

「ちが、違うんです……。ただ本当に……嬉しくて……」

 過ごせるなんて思っていなかったんだ。自分の誕生日を安積さんと過ごすなど本気で考えていなかった。なのに、安積さんから声をかけてくれて祝ってくれた。行きたい場所に連れて行ってくれて食べたいものを用意してくれた。また……部屋に招いてもらえた。そんなこと起きるなんて思ってなかったから。

「あれ、止まらない……どうしよう」

 ごめんなさい、そう言ってもポロポロと溢れて止まらない。
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