ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~

すれ違う時間

 安積さんから告げられた言葉がずっと胸の中で生き続ける。思うたびに体が強張るようで少し力を抜いたら胸の苦しさは解放されるけれどそれも一瞬。無意識のうちにまた体は強張るを繰り返している。

 いつか終わる、それを知っていたはずなのにどこか現実味がないのは結局それだけ自惚れていたのだと。

 三ヶ月、その間に本当に安積さんと特別な関係に発展できるとどこか信じていたんだ。

(馬鹿みたい)


 ――俺はもう恋愛しない。誰のことも好きにならない。誰かと一緒にいて愛されたとしても……俺がそれを返して受け止めることも支えられる自信もないんだ。


 そんな言葉を言わせてしまった。それが私を苦しめてくる。

 未だに過去の恋人に対しての後悔に苦しんでいる安積さんがいる。そんな人に、まだ一緒にいたいと縋った自分が情けなかった。

「……」

 ポタリ、とコーヒーの雫がサーバーから落ちて丸く円が描かれると揺れて静かに消えていく。

 その黒い液体の中に心が吸い込まれそうだ。
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