ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
安積視点

愛しいひと

 誕生日に抱きしめたのはたまらなくなったからだ。


 ――ちが、違うんです……。ただ本当に……嬉しくて……。


 そう言ってポロポロと涙をこぼす四宮を見つめていたら胸の奥からこみ上がってくるものがあった。

 その感情に名前を付けるなら――愛しさだった。

 泣き止もうと必死になるのに涙が止まらなくて、その潤んだ瞳がたまらなく可愛いと。

 それでもそんな風に嬉しいとこぼして泣く四宮を俺は受け止めてやれない。

 こんな風に俺に想いを告げる四宮を心から愛しく思って抱きしめてやれないからせめて今だけ――。


 (今日だけは……抱きしめたい)


 それが俺の勝手な気持ちでも、涙をこぼす四宮の涙をすくってやりたいと。

 けれど、抱きしめてからまた後悔した。同じことの繰り返し、優しさをはき違えて相手の為なんか嘘だ。

 このあと四宮を突き放してこの関係を終わりにするのに。
< 214 / 248 >

この作品をシェア

pagetop