おてんば男爵令嬢は事故で眠っていた間に美貌の公爵様の妻(女避け)になっていたので土下座させたい

奇跡と絶望

目覚めると天蓋ベッドの白い布が見えた。

(あれ? ここはどこ?)
「痛ったたた!」

体が重いし痛い。

「お目覚めになりましたか?」

誰かの声がした、知らない侍女だった。

「水がほしいわ。喉が渇いて死にそう。というかここはどこなの? 貴女は誰かしら? 私はセイラ・アースクエイクよ。なんか体が重いし動きづらいの。手伝ってくださる?」

その侍女は最初、とまどっていたが、水を飲ませてくれて、それから体を起こす手伝いをしてくれた。

「主治医を呼んでまいりますので、しばらくお待ちください」
「医者? 私、どこか悪いの? ねえ、もしかしてここは病院かしら?」

侍女は何かを迷っているが一礼して部屋を出て行った。

「ナニ、何々、どういうこと?」



しばらくして白衣の主治医らしき人と、これまた知らない男の人が入ってくる。

「一生目覚めないと思っていたが奇跡だね」
「セイラ……」

名前を呼びながら色男はセイラの手をとった。表情からは何も読み取れない。

「誰かしら? この顔の良いお兄さん」

「イェルガー、君の夫だ。」
「はい? 夫ですって、うふふ。ご冗談を。私にはセイドリックと言う婚約者がいるのよ?」
「君は事故に遭って一年間眠っていた。その間に君と婚約破棄してセイドリックは他の令嬢と婚約を結び直した」
「うそでしょ? なんかのドッキリ? 誰かいるんでしょ、どこ?」

立とうとするとふらついた。
イェルガーはセイラを支えた。そして、主治医と侍女に部屋の外に出るように言った。

「君と男爵の乗っていた馬車が事故に遭い、君だけがかろうじて助かったんだ」

「うそでしょ……?」

イェルガーは無言で首を横に振った。

「なんで? 私結婚している事になっているの?」
「それは、男爵が亡くなって、君は親戚に売り払われて、二百リトンで買われたんだ、俺に。ちょうど良い女避けとして」
「なんですって??」

セイラは今ある力の限りイェルガーを突き飛ばそうとした。
とことん筋力の落ちた身体では、自分が尻餅をつくだけだった。
セイラはイェルガーをめいっぱい睨んだ。

イェルガーは抵抗するセイラを横抱きにして持ち上げ、ベッドに置いた。

「俺の周りをうろちょろされると困るからリハビリはしなくていい」

それだけ言うと、去っていった。

セイラは自分の置かれている現実に胸くそ悪いのと悲しいのと悔しいのが織り交ざり、心がぐしゃぐしゃになった。
< 2 / 20 >

この作品をシェア

pagetop