おてんば男爵令嬢は事故で眠っていた間に美貌の公爵様の妻(女避け)になっていたので土下座させたい

旦那様をお出迎え

ここ数日間で思うこと。

(とりあえず、とりあえず……)

めちゃくちゃリハビリして元気になってイェルガーをボコボコに殴りたいとだけ思った。

(でも、何からしたら良いの? ご飯食べて散歩してしっかり寝て……なんかちがくない? 平穏すぎるよね、もっと血のにじむ努力とかあると思うのよね)

それができないのがセイラであった。
セイラは必死に考えた。

(敵を知らねば倒し方もわからない。とりあえず、今の実力を知るためにイェルガーを殴りに行こうと思います)

家の中をうろうろする。

(広い、広いよこの屋敷)

玄関らしき空間のでっかい扉が開いた。目的の人物が帰ってきたようだ。

「イェルガー!!」
(覚悟!!)

ばっと右手を突き出したセイラ。
イェルガーは手を掴み取ると、上へあげてセイラの身体をくるくる回した。
今は社交ダンスしている場合じゃない。
セイラの腰を抱き寄せると、次に横抱きにして二階まで一気にかけ上がった。

セイラの部屋まで行くとベッドの上に投げ捨てた。

「ぬわっ!」
「旦那様をお出迎えとは感心した、なんのつもりだ?」
「一回殴らせろ!」

セイラはベッドの上でだだっ子のように暴れた。

イェルガーは髪をかき、ため息をこぼした。

「……そうか、そうだよな。女はめんどうな生き物だったな」

相変わらずの無表情で淡々と続ける。

「君はここ以外もう行くところはない。ここを出ていっても野たれ死ぬか、まぁ女を活かした仕事に就けるかもしれないが……」

セイラは胸くそ悪くなった。あまり頭が良い方ではないが脅してきているのがわかったからだ。

「取引しよう。俺の言う通りにすれば、衣食住は保障する」
「内容によるわ。もう一回事故に遭えとか無理だから」
「必要以上に俺に関わらずにこの家で暮らせば良いだけだ。簡単だろう?」
「仮面夫婦でいれば良いのね」

「まあそれで良い。ただ外では俺が君に惚れている事になっている……」
「はぁ? なにそれ? 全く意味わからない」
「結婚は断固として君が良いと言い張ったから、なんだかそういうことになってしまってな、でも君は俺を無視してもいい」
「は? ドMなの? 私にその手の趣味はなくってよ」
「引き受けてくれるかい?」

相変わらずの無表情で言われた。

「わかりました」


セイラは考えていた。

(このボランティア私にメリットが多すぎでは? 私は身寄りがないし、この身体だから子作りもドクターストップだし、しばらくは社交もしなくていいんだって。この家お金持ちそうだし、何よりイェルガーを無視してもいいし、条件が良すぎないか。そんなに女を避けたいのか)

セイラは認めたくないが確かにイェルガーの見目だけは良いと思う。とても良い。

(語彙力が無くて本当にすまん)

お金持ちで顔が良くて背も高い。社交界でキャーキャー言われているのだろうけど、セイラは鼻で笑った。

(人間、性格も大事よね。他の女性を騙せても私は騙されんぞ)

これからイェルガーへの復讐計画を立てるのだ。

(絶対に土下座させてやる。そうと決まったら情報収集だ)
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