地の果てに咲く花

〈美宵said〉


「ねえ、桜駒大丈夫かなあ」

「あんな苦しそうに、」

桜駒が救急車に乗せられたあと。

体育館はもう授業できる雰囲気ではなかった。

あたしは、桜駒のこと勿論心配だけど、引っかかることがあったんだ。

桜駒は意識を失う前、こう言った。

『っ、おに、ぃちゃ……ん……』

“お兄ちゃん”。そう言ったんだ。

確かに、桜駒にはお兄さんがいる。

でも彼女が言ったのは、彼らではないだろう。

だって桜駒は、一番上のお兄さんを『兄さん』、二番目のお兄さんを『雷稀兄』と呼んでいたはずだ。

きっと間違っても『お兄ちゃん』などと言わない。

じゃあ誰?

桜駒が何か隠していること。家族に触れてほしくなさそうな態度。お父さんに似ていない理由。PTSD。呼吸困難。桜駒の部屋にあった写真。一緒に笑っていた男の子──。

「……まさか」
< 95 / 162 >

この作品をシェア

pagetop