極上の甘やかされ同居生活は溺愛のはじまり~大失恋したら女嫌いだったはずの凄腕心臓外科医がなぜかグイグイ迫ってくるのですが、これはいったい何事ですか?~
ふたりだけの世界に溺れる
【ふたりだけの世界に溺れる】


 帰りの車内。
 会話はなく、とても静かだった。
 陽葵はただただ、助手席の窓の方を見ていた。
 マンションに戻ってからも、陽葵は目を合わせてくれようとはせず、すぐに自分の部屋に行こうとした。
「陽葵、待ってくれ。さっきはムキになって悪かった」
 とっさに彼女の腕を取り、頭を下げた。
「私が冬哉くんのお家でお世話になっていること、おにいちゃんたちさすがに気づいたよね? どうしてあんなことを言ったの?」
 おずおずと顔を上げたら、困ったように顔を強張らせる陽葵の姿があって胸がずきりと痛む。
 陽葵の心は、やはりいまだに貴司のもの。俺なんて入り込む隙間などないのだと言われている気分だ。
 それでも、もう自分の思いに蓋をすることはできそうになかった。
「あんなふうに言ったのは、陽葵が好きだからだ」
 陽葵の目を真っ直ぐに見つめながら、初めて思いを口にした。
「え、え? 冬哉くんが……私のことを好き?」
 突然の告白を聞いて、陽葵が睫毛を瞬かせる。
 思考が追いつかないといった様子だ。
 同居生活を始めてから、結構アピールしていたつもりでいたのだが、鈍感な彼女にはまったく伝わっていなかったらしい。
 だったら、分かってくれるまで何回だって言う。
「ああ。陽葵が好きだ。ずっと好きだった。だからさっき貴司に嫉妬したんだ」
「嫉妬?」
 陽葵が意外だと言わんばかりに、今度は目を見開いた。

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