石楠花みどりはあえて男を作らない~スパダリ編集者は愛しの作家に身を捧げすぎる~
第一章 あえて男を作らないソロ充ウーマン――のはずですが
――部屋に男がいる。
それだけでも緊張するというのに、彼が私のためにキッチンで甲斐甲斐しく夕ご飯を作ってくれているものだから、さらに落ち着かない。
「石楠花先生」
滑らかな低音ボイスで呼びかけられ、私は出来うる限りの平静を保って応じる。
「はい、なんでしょう?」
大きめのノートPCの脇からちらりと顔を覗かせれば、キッチンカウンター越しに背の高い美丈夫と目が合った。
シャープな眼差しに、外端に向かって持ち上がった力強い眉。高い鼻に薄めの唇、清潔感とナチュラルさが共存した艶やかな黒髪。
いかにもできる男といった印象だが、ネイビーのエプロン姿が妙にかわいらしくもある。
「集中しているところ申し訳ありません。夕食の準備ができたので、区切りのいいタイミングで声をかけていただければと――」
「ああ、大丈夫ですよ。ちょうど区切りもいいので」
私は微笑みとともに、いつもより少し高めの声で答えた。
見目のいい男性に愛想よくしている――わけではない。
苦手な〝男〟という種族に警戒心が働いているのだ。
「でしたら食事にしましょう。すぐにお持ちします」
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