石楠花みどりはあえて男を作らない~スパダリ編集者は愛しの作家に身を捧げすぎる~
第九章 文学に全振りした私がただひとり愛した男
週刊誌の件に進展がないまま『大正浪漫恋謳・花薫る風の便りに』の発売日まで二週間を切った。
これから新作の発表会見が行われるが、普段の倍の規模の会場を押さえたのは、マスコミが押しかけるだろうと予想していたから。
普段なら作品への質問など和やかな空気が漂う質疑応答も、今回ばかりはスキャンダル記事の話題で持ち切りになるだろう。
緊張する私を落ち着かせてくれたのは、やはり誓野さんの「大丈夫」という言葉だ。
会場のホテルに前日入りしていた私。当日、部屋まで迎えに来てくれた彼が、私の背中に手を当てて頼もしく言う。
「俺がすぐそばにいる。なにがあってもフォローに入るから大丈夫」
今日彼はこの発表会見の司会進行を務めてくれるそうだ。
「不快な質問が飛んできたら、すぐに俺が入るから。翠さんはなにも言わなくていい」
「……わかりました。よろしくお願いします」
控室に入ると、編集長と吉川さんもスタンバイしていた。
編集長は会見中、私の隣に座ってくれるそうで「失礼なヤツがいたら私がどつき倒しますから」と胸を叩く。