石楠花みどりはあえて男を作らない~スパダリ編集者は愛しの作家に身を捧げすぎる~
第三章 ひとつ屋根の下の純愛考察
日本家屋に住み始めて三日目。茶の間の隣にある奥座敷が私の執筆スペース兼寝室。
窓辺にある簡素な座机の上にPCを置いて作業をしている。
誓野さんが気を利かせて、箪笥に着物を数着入れておいてくれた。
成人式のような派手な着物ではなく、普段着として着られる〝和服〟だ。
気分が乗るようならと勧められ、せっかくここまで来たのだから徹底的に形から入るのもアリかと思い、使わせてもらっている。
幸いにも歴史ものを書く一環で着付けを習ったので、自装も問題ない。
環境を変えたのがうまく作用したのか、筆自体は進み始めている。
机が低めなので少しやりにくいのと、気がつくと足が痺れて動けなくなっているのが玉に瑕だが。
「いたたたた……」
立とうとして初めて足が痺れていることに気づき、脚を広げて投げ出す。そういえば、執筆を初めてから二時間、ずっとこの体勢だったか。
そこへ「失礼します」と襖の向こうから声がかかった。
「あっ、はい」
慌てて脚を閉じる。少し間を置いて、襖がすーっと音を立てて開いた。
黒いセーターとライトグレーのトラウザーズを穿いた誓野さんが、お茶と一輪挿しをトレイに載せてやってくる。