石楠花みどりはあえて男を作らない~スパダリ編集者は愛しの作家に身を捧げすぎる~
第四章 触れて、感じて
十一月の中旬、ここに来て三週間が経った。

東京よりもずっと朝晩の冷え込みが激しく、石油ストーブを焚くようになった。誓野さんが用意してくれたヒーター付き手袋も大活躍している。

原稿を全体の半分程度書き終えたところで、部屋に彼を呼んだ。

紙に印刷してざっと読み進めてもらう。彼は畳の上で胡坐をかきながら、ときたま膝に原稿を載せて赤ペンでメモを書き込みながら読んでいる。

私はその背後の執務デスク――これ以上足が痺れないようにと彼が置いてくれたもので、畳が傷つかないようにふかふかの絨毯も敷かれている――にちょこんと腰かけて、彼が読み終えるのをじっと待った。

「……うん。カヲルの心に温度が感じられるようになりましたね。とてもよくなったと思います」

読み終えた原稿を膝に置き、そんな感想を漏らす彼。私はひとまず安堵して、ふうっと大きく息をついたあと、彼の前に正座した。

誓野さんが講評を続ける。

「ふたりの焦れったい関係も伝わってきました。今後、ブラッシュアップは必要になってくると思いますが、ひとまずこのまま進めて問題はないでしょう」

「わかりました。……そのメモ、見せていただけますか?」

< 53 / 188 >

この作品をシェア

pagetop