石楠花みどりはあえて男を作らない~スパダリ編集者は愛しの作家に身を捧げすぎる~
第五章 もっと近づきたい
朝五時四十分。その日、私は初めて誓野さんより先に起きてキッチンに立った。
和装の腰ひもをたすき掛けにして結び、動きやすいように袖をまくる。
六時を過ぎてキッチンにやってきた誓野さんは、すでに朝食を作り始めている私を見て、驚きの表情をした。
「突然料理なんて、どうされたんです?」
「今日は私に任せて、誓野さんはどうぞゆっくり休んでください」
そう言ってキッチンから追い出そうと背中を押すと、彼は「っ、て、え……?」と困惑した声を上げた。
「今日は楠花翠が誓野さんを労わる日です」
「それは、どういう……」
「原稿が一段落したので、誓野さんに頑張ってもらう必要はないなと感じまして」
「翠さんが気を回す必要はありません! ここにいる間は俺が――」
「それに、ちょっと試してみたいことがあるんです」
言葉を遮ると、彼は神妙な顔で私を見下ろした。
「カヲルは勇に嫁ぎ、これまでしたことのない家事をするようになります。それを幸せだと語る。……私もそういう感覚を味わってみたいなと思いまして」
家事より原稿が大事だった私が、恩人のために家事をする。