石楠花みどりはあえて男を作らない~スパダリ編集者は愛しの作家に身を捧げすぎる~
第六章 理性の限界と敗北感
八年前の冬。都内にあるホテルのイベント会場にて、盛大な授賞式が開かれた。垂れ幕には【第二十七回・北桜出版小説大賞受賞式】の文字。
当時の俺は二十二歳でまだ学生だった。
この春には大学を卒業し、北桜出版の一社員として入社する。様々な経験を積み、いずれは父のような経営者になる。
歩む先には綺麗なレールが敷かれていて、目の前のことを淡々とこなすだけで順風満帆な未来が約束されている。
だが、なんでも器用に卒なくこなせる代わりに、突出したなにかを持たない俺が、人生に物足りなさを感じていたことは確かだった。
『もうすぐ入社するんだし、雰囲気だけでも味わってみたらどうだ?』――父のそんな気まぐれなひと言で授賞式の会場に招かれたはいいが――。
……ぼんやりと進行を眺めているだけじゃ、脳がないよな。
そう思った俺は、あらかじめ人事部にかけあい、インターンとして参加させてもらった。
仕事内容は総務部と文芸編集部の補佐。パーティー会場の受付に立ち、招待客の名前を確認する。
礼儀さえ知っていればどうにかなる、比較的簡単な業務だ。だが、当然それで終わらせるつもりもない。
来客の顔と名前を確認しながら思案する。