『イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした』
迫る影
暗い部屋に、パソコンのディスプレイだけが光を放っていた。

無音のまま流れる映像。
カメラの画角は、マンションの共用廊下。
そして、特定の部屋の扉を、まるで定点観測するかのように映し続けていた。

画面の端には、日付と時刻。
それは、ほんの数日前のものだった。

「……毎朝、だいたい同じ時間に出るんだな」

中原孝志は、指先で映像を早送りしながら、小さくつぶやいた。

冷えたコーヒーの缶。
無造作に投げ出された作業服。
そして――工具袋の中には、数本のドライバーと、開錠用のツール。

壁には貼り付けたように、手書きのメモがいくつも並んでいた。

「今日は……一度だけ、外出してる」

その声に感情はない。
だが、画面を見つめる目には、異様な熱がこもっていた。

中原の手が、棚の奥から取り出したのは――
以前“不要になったはず”のマスターキー。

それを握り締めると、彼は立ち上がった。

防寒の上着を羽織り、フードをかぶる。

部屋の明かりを落とし、玄関に置いてあった黒い靴をゆっくりと履いた。

足音を立てないよう、扉を静かに閉める。

冷えた廊下の先――
彼が向かうのは、“一度入り込んだ場所”だった。
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