『イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした』
救出
ぼんやりとした天井の光が、視界の端にゆれていた。

暖かい空気。
毛布に包まれた体。
湿った髪が、今はタオルでふわりと覆われている。

――ここは……どこ……

美香奈はまぶたをうっすらと開き、
視界に映る見慣れない天井を見上げた。

手元には、やわらかな布と、
ふくらはぎまでしっかりとかけられた毛布の重み。

耳元には、一定の電子音と、
ときおり近くで紙のめくれるような音。

「……気がつきましたか?」

声の主は、ベージュのナース服を着た看護師だった。

「まだ無理に起き上がらなくて大丈夫ですよ。
ここは病院の個室です。あなたは救急搬送されて、いま処置が終わったばかりです」

そう告げられても、言葉の輪郭がどこかぼやけていて、
美香奈はただ、うなずくこともできず、目だけを閉じたり開けたりした。

「安心してくださいね。
いまは体を温めて、少しずつ呼吸も整ってきています。
苦しくなったら、ナースコールで呼んでください」

毛布の上からやさしく肩を押さえ、
看護師はそっと席を立った。

その直後、扉の前で何かを確認するような足音がして、
「警察の方が一人、病院内で待機されています」と、
低く抑えた声が耳に届いた。

――神谷さん……?

ふと浮かんだ名前に、胸が小さく疼いた。
美香奈は、まぶたの裏でその姿を思い浮かべながら、
ゆっくりと深呼吸を一度だけ、試みた。

「ふー……」

不安の波はまだ胸の底に沈んだままだ。
けれど、その波の先に光があるような気がしていた。
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