『イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした』
名前を呼ばれる距離
朝の事務所は、いつもと変わらない静けさに包まれていた。
美香奈はデスクに腰を下ろし、コーヒーの香りにひと息をつく。

ほんの短い時間だったけれど――
昨日、神谷と交わした会話が、何度も心の中で反芻されていた。

無口で、表情もほとんど変わらない。
けれどその一言が、不思議なほどあたたかかった。

「おはよう、美香奈さん」

声をかけてきたのは、同僚の佐藤だった。
柔らかく笑う彼女は、いつも気さくに話しかけてくれる。

「おはようございます」

「昨日、交番の前で神谷さんと話してたでしょ?」

「えっ……見てたんですね」

「うん。あの人、見た目ちょっと怖いけどさ、うちの姉が前に一緒に仕事したことあるって言ってたの。警ら隊時代に」

「へぇ……」

「すっごく真面目で、きっちりしてるって。あんまり人と喋らないけど、仕事は丁寧って」

それを聞いて、美香奈は思わず小さく笑った。

(やっぱり、ちゃんとした人なんだ)
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