『イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした』
隣り合う距離
パトカーの音が近づくと同時に、美香奈の目から涙が零れ落ちた。

わかっていた。
神谷が来てくれると信じていた。
それでも――不安や恐怖で張りつめていた心が、ついに決壊してしまった。

(怖かった……本当に)

呼吸が浅くなり、視界がにじむ。
ようやく鳴ったインターホンの音に、震える手で応じた。

ドアスコープ越しに見えたのは、制服姿の神谷と、後ろに立つ若い警察官。
交番の同僚だろう。ふたりとも表情は真剣だった。

チェーンをかけたままドアを少し開けると、神谷が静かに言った。

「橋口さん。……大丈夫です。私たちが来ました」

その声に、堪えていたものがまた溢れそうになり、美香奈は手で顔を覆った。

「……すみません、私……もう、どうしていいか……わからなくて……」

言葉にならない吐息のような声を、神谷は決して遮らなかった。

「もう大丈夫です。
僕たちは、ちゃんと来ましたから」

その静かな言葉に、初めて“守られている”という実感が胸の奥からこみ上げた。

涙を拭いながら、美香奈は小さく頷いた。
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